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名古屋高等裁判所 昭和44年(ラ)35号 決定

抗告人(補助参加申出人) 岐阜三星染整従業員組合

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一、抗告人は、「原決定を取消す。本件補助参加の申出を許可する。」との裁判を求め、その理由とするところは別紙抗告の理由記載のとおりである。

二、申請人福田悦子外一名・被申請人岐阜三星染整株式会社間の岐阜地方裁判所昭和四三年(ヨ)第二四六号地位保全仮処分申請事件の記録によれば、次の(一)ないし(三)の事実が明らかである。

(一)  抗告組合は、昭和四三年一月一七日仮処分申請人らを組合の統制を乱したものとして除名処分に付し、同日これを被申請会社に通告した。右通告を受けた被申請会社は、「会社の従業員は原則として組合員でなければならない。組合員で組合の除名したる者は、会社は原則として解雇する。」とのユニオン・シヨツプ協定に基づき、翌一八日申請人両名を解雇した。

(二)  申請人両名は昭和四三年七月一六日右解雇の無効を主張して岐阜地方裁判所に対し本件仮処分の申請をなした。その申請の趣旨は、「申請人らが被申請会社の従業員としての地位を有することを仮に定める。被申請会社は、昭和四三年一月一九日以降毎月二五日限り、申請人福田悦子に対しては金三〇、三一三円、申請人辻丸喜美子に対しては金二四、九四一円を仮に支払え。申請費用は被申請会社の負担とする。」との裁判を求めるというのであつて、その申請理由の要旨は、(1)本件解雇の前提たる除名処分は無効であるから解雇も無効である、(2)本件解雇は不当労働行為であるから無効である、(3)本件解雇は解雇権の濫用であるから無効である、というのである。

(三)  右仮処分申請事件の第八回口頭弁論期日において抗告組合は補助参加の申出をしたが、その申出につき申請人らから異議が申立てられ、原審において、抗告組合は判決主文における判断についてはなんら法律上の利害関係を有しないものとして、右参加申出は却下された。

三、ところで抗告組合は、本件の訴訟物は抗告組合の申請人らに対する除名処分の無効を原因とする被申請会社の解雇処分の無効確認ないしはその従業員たる地位の確認であるので、右除名処分に関する判断は、訴訟物に関する判断であつて、単に判決理由中の判断に止まるものではないから、抗告組合は民事訴訟法六四条にいう「訴訟の結果につき利害の関係を有する第三者」に該当する旨主張する。

しかし、前記事実から明らかなとおり、申請人らの主張する解雇無効の理由は、単に除名処分の無効のみに限られるのではなく、不当労働行為および解雇権の濫用をもその理由としているのであつて、抗告組合のなした除名処分の効力の有無のみにより本件解雇の効力が決せられるとは限らないのであり、除名処分の効力とは無関係に解雇の効力の有無が判断されることもあり得るのであるから、本件の訴訟物は従業員たる地位および給料請求権の存否のみに限られ、除名の無効は訴訟物(請求)を理由あらしめる事由に過ぎないものというべきであつて、除名処分に関する判断が本件の訴訟物に関する判断に属するものということはできない。したがつて、仮に除名処分が無効であり、無効な除名に基づきなされた解雇も無効であると判断されて、申請人ら主張のとおりの仮処分がなされたとしても、除名無効の点に関する判断は判決理由中における判断に過ぎないのであつて、主文における判断は従業員たる地位および給料請求権の存在の確定のみに限られるのであるから、右判決から、抗告組合において直ちに申請人らを組合員として扱うべき義務を負うこととなるいわれはないし、また抗告組合において被申請会社または申請人らに対し除名の無効を原因として損害賠償責任を負うことが確定されるいわれもないのである。

抗告組合において、自らのなした除名処分の効力が争われている本件に関心を抱き、その結果につき利害の関係を有するものと考えることは理解し得ないではないが、民事訴訟法六四条にいう「訴訟の結果につき利害の関係を有する第三者」とは、判決の主文における判断につき法律上の利害関係を有する者に限られ、単に判決理由中の判断につき事実上ないし感情上の利害を有するに過ぎない者は、これに含まれないものと解すべきところ、先に説示したところから明らかなとおり、抗告組合は本件の結果につき法律上の利害関係を有する第三者ということはできず、その利害は単に判決理由中の判断に関する事実上ないしは感情上のものといわざるを得ないから、抗告組合の本件参加申出は理由がない。

よつて、右参加申出を却下した原決定は相当であつて、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして主文のとおり決定する。

(裁判官 県宏 西川正世 浅香恒久)

(別紙)

抗告の理由

一、民事訴訟法第六四条に定められている参加の要件として、訴訟の結果につき利害関係を有する者とは、その訴訟の本案判決でなされるべき訴訟物に関する判断につき法律上の利害関係があれば充分にして、訴訟の結果である判決の効力(既判力・執行力・形成力)が直接参加人に及ぶ場合に限定されるものではない。

二、ところで、本件仮処分の基礎となる本案訴訟の訴訟物は何であるかを考えてみるに、仮処分申請書に明らかな如く、補助参加組合の除名処分の無効を原因とするところの被申請会社の解雇処分の無効確認若くは被申請会社の従業員たる地位の確認である。したがつて本件除名処分の効力に関する判断は訴訟物に関する判断であり、単なる理由の判断ではない。

三、もちろん、補助参加組合は本件仮処分に於て申請人等が、被申請会社の従業員としての地位を有することを仮に定める旨の仮処分決定が下されても、また本案訴訟に於て同趣旨の主文による判決が下されても直接既判力又は執行力に拘束されるものではないが、除名処分の効力が有効であるか否かの判断については直接補助参加組合が法律上の利害関係を有することはいうまでもない。

四、以上に明らかな如く原決定が本件補助参加申出につき補助参加人が単に判決理由中の判断のみに利害関係を有するに過ぎずとして申出を却下したことは誤りであるから、前記趣旨記載の裁判を求めるため本抗告に及んだ次第である。

〔参考資料〕

補助参加申出

(岐阜地方昭和四四年四月七日決定)

申請人 福田悦子外一名

被申請人 岐阜三星染整株式会社

補助参加申出人 岐阜三星染整従業員組合

主文

本件補助参加の申出を却下する。

異議により生じた訴訟費用は補助参加申出人の負担とする。

理由

補助参加申出人の参加理由は別紙のとおりである。しかし、補助参加の要件たる民訴法六四条にいわゆる訴訟の結果につき利害関係を有する第三者とは、判決主文における判断につき法律上の利害関係を有する者をいい、単に判決理由中の判断につき利害関係を有するに過ぎない者はこれにあたらないと解すべきところ、本仮処分申請における申請人らの申立は「1申請人らがいずれも被申請会社の従業員としての地位を有することを仮に定める。2被申請人は、昭和四三年一月一九日以降毎月二五日かぎり、申請人福田悦子に対しては金三万三一三円、申請人辻丸喜美子に対しては金二万四、九四一円をそれぞれ仮に支払え。3申請費用は被申請人の負担とする。」との判決を求めるというのであつて、仮に申請人ら主張のとおり参加申出組合の申請人らに対する除名処分が無効であると判断され、あるいは他の理由で申請人らに対してなされた解雇が無効であると判断され、申請人らの右申立どおりの仮処分判決がなされたとしても、右の判断は判決の理由たるに過ぎないのであるから参加申出組合としては、申請人らを組合員として扱うべき義務を直ちに負うわけでもないし、また申請人らに対する除名処分の無効を原因とする損害賠償責任が確定されるわけでもない。結局、参加申出組合は判決主文における判断についてはなんら法律上の利害関係を有しないものといわなければならない。

よつて、本件補助参加の申出を却下することとし、異議によつて生じた訴訟費用の負担につき民訴法九四条、八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 丸山武夫 川端浩 北沢貞男)

(別紙)

補助参加の理由

一、本仮処分申請は、被申請会社の申請人らに対する解雇の効力を争点とするものであるが、右解雇は、申請人らが昭和四三年一月一七日参加申出組合を除名されたことを理由として参加申出組合と被申請会社との間に締結されたユニオンシヨツプ協定に基づいてなされたものである。

二、申請人らは、右除名が第一に組合規約に根拠を欠くこと、第二に組合大会の決議を経ていないこと、第三に除名の正当理由がないこと、第四に除名権の濫用であること、を理由としてその無効を主張している。

三、右除名は、参加申出組合の団結を維持するために正当にして且つ当然の統制権の結果であり、その効力の有無ならびに右解雇の効力については法律上重大なる利害関係を有するので、被申請会社を補助するため本申出におよんだ。

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